ライブハウスのキャパが150人から7人に.
これは,池袋にあるライブハウスAdmが新型コロナウイルス対応のチェックリストに沿った場合にキャパ(収容人員)がどの程度になるのか検証した動画で示された結果.
チェックリストは神奈川県が緊急事態宣言解除に伴い,事業活動を再開するにあたって必要な業種別の感染拡大防止対策を示したもの.
ライブハウスに限らずですが,最早周知の言葉となりつつあるソーシャルディスタンス確保のために基本的に対人で2mの距離を確保する,という対策.
それに沿ってみると,通常キャパ150人のAdmは7人しか収容できない,という結果になったということ.
若干面白おかしくやっているところもあり,様々な意見が飛び交っていますが,徐々に各業種で経済活動再開が始まっている中にあって,ライブハウスという場所が未だに苦境の最中にあるということを示している動画です.
個人的にもやっぱり厳しいよなぁ…と見ていて思った次第.
と同時に,感染の状況も各地で様々な中で日々のニュースではセンセーショナルなトピックのみ部分的に取り上げられているだけなので,現在本当のところどんな状況なのか?と気になったので自分の興味半分で調べてみました.
※5月31日時点の対応を個人的に調べて記載したものなので,最新の正確な情報は国や各自治体の情報を確認お願いします.
ライブハウスのコロナ対応の現状
そもそものライブハウスの扱い
5月25日に特定警戒として残っていた地域も解除され,緊急事態宣言が全都道府県で解除となったこともあり,休業要請についても大多数の地域では全面的に解除となっています.
共同通信のニュースによると7都県(茨城,埼玉,千葉,東京,山梨,岐阜,福岡)を除いて,6月1日迄に全業種の要請が解除される状況.
ライブハウスは,過去にクラスター(集団感染団)が発生している感染リスクのある施設というカテゴライズをされており,7都県においては,そのカテゴリーにあるライブハウス,スポーツジムなどの施設は引き続き休業要請が継続される,という状況です.
以前大阪のライブハウスでクラスターが発生したことを受けて,状況的にいわゆる3密になりやすいライブハウス=危険,みたいな報じられ方をしていたこともあるのでしょうが,解除の対象となっていない地域があるのは厳しい状況ですね.
休業要請が続く7都県の中でも対応は分かれていて,とりわけ東京都においては未だ先が見えていない状態です.
都が示している新型コロナウイルス感染症を乗り越えるためのロードマップの中で,施設別の休業要請緩和のステップが具体的に記載されています.
5月22日時点をステップ0として,緩和が進むごとにステップ1 → ステップ2と進み,緩和が一番進んだステップ3になったとしてもライブハウスの休業要請に関しては,「国の対処方針等を踏まえ、対応を検討」の文言のみで,どうなるか不透明です.
一方で様子見…というわけでもないのでしょうが,独自に段階を踏んで要請解除の目安を示している地域もあります.
例えば茨城県.茨城版コロナNextとして都と同様に段階ごとの対応策が示されていて,こちらはスタート地点をStage4として緩和が進むごとにStage3 → Stage2と数字が減っていく記載.
5月25日時点でStage2となっており,クラスター発生歴のあるライブハウス,カラオケなどは引き続き休業要請の対象となっています.今後も感染者の抑制ができれば6月8日にStage1への対策緩和を予定,と明記されており,Stage1になるとライブハウスなどの休業要請も解除されます.
余談ながら,今回各都道府県のコロナ対策のホームページ調べてみて,表現の仕方がてんでバラバラなので,せめて緩和が進むにつれて数字が減るのか増えるのか,ぐらいは揃わないものなのかな…と思ったり.
その他の県も含めた7都県の対応です.
(ライブハウスに関して)
- 東京都:休業要請を継続し,今後の緩和については国の対処方針等を踏まえ、対応を検討(具体的な日付は不明)
- 茨城県:感染者数の抑制が引き続きできれば,6月8日に緩和予定
- 埼玉県:6月18日迄休業要請延長(その後は不明)
- 千葉県:休業要請を継続し,県内,近隣都県の状況,国の動向を踏まえて解除を検討(具体的な日付は不明)
- 山梨県:6月18日迄休業要請延長,但し業界団体のガイドライン,県の示す基準に適合し遵守する施設は個別に解除
- 岐阜県:県行動指針に沿った感染防止対策の確立を確認できるまで休業要請を継続
- 福岡県:北九州市以外は解除,北九州市内は6月18日迄休業要請継続
※各都県のコロナ対策HPから抜粋
再開にあたっての対応策
国のガイドラインは
上記7都県の方針の中でも国の方針を踏まえて休業要請解除を検討する旨の文言もあるので,国の方針はあるかが気になるところ.
国の方針はどうなっているんじゃろ?と言うことで内閣官房による新型コロナウィルス感染症対策を見てみると,トップページに「業種ごとの感染拡大予防ガイドライン一覧」のリンクがあります.
ガイドラインリストの一般社団法人ライブハウスコミッションの項目を見ると,「調整中」との記載で5月27日時点では具体的にライブハウスに関するガイドラインは示されていない状態でした.
国として業界団体と共に策定するガイドラインは,ことライブハウスにおいては5月末の時点では公表されていない,という状態.
そんな中で休業要請解除となった地域では,何もないわけにもいかないでしょうから,各自治体が国の基本的対処方針を踏まえて独自にガイドラインを策定しているんだと思います.
そのガイドラインを参考に検証してみたのが,冒頭のAdmの動画というわけですね.
神奈川県のガイドライン
ではその神奈川県のガイドラインはどんな内容なのか.
上記神奈川県のホームページに掲載のガイドラインからソーシャルディスタンスに関する記載を抜粋したのが以下の内容です.
☐混雑時における入場制限(整理券配布等)
☐ステージと客席の間に充分な間隔を取る
☐客と客との間隔を2メートル以上確保する
☐カウンター内とカウンターをアクリル板等により遮蔽する、
又は対面の距離を確保する
☐身体的接触(握手、ハイタッチ等)の禁止の周知
☐客等へ大声での発声を控えるよう周知
☐施設への入場前、施設利用中において、周囲の人との
ソーシャルディスタンスを保つよう表示・周知
☐レジ等対面する場所にビニールカーテン等を設置
☐入退場の際の列に間隔を設ける
客と客との間隔を2メートル以上確保すると明記されてますね.
大阪府のガイドライン
ガイドラインでおそらく神奈川よりもテレビ等で取り上げられているのが,ライブハウスに限らず独自の対策を次々と打ち出して,世間を賑わせている大阪府.
こちらも独自のガイドラインを示しています.
こちらはpdfで実に9頁に渡って,ライブハウス側と主催者側とが公演前,公演当日に行うべき対策が細かく示されています.その中でライブハウス施設内の対策として以下の記載があります.
・施設内は原則着席とする。着席が難しい場合は、客同士の
距離(できるだけ2mを目安に(最低1m))を確保すること。
・飛沫感染防止のため、ステージと客席の間は2m以上確保
すること。又は透明なアクリル板や透明ビニールカーテン
等で遮蔽すること。
・座席の最前列席は舞台前から十分な距離を取り、十分な
座席の間隔の確保(前後左右を空けた席配置、距離を
置くことと同等の効果を有する措置等)に努めること。
神奈川県ガイドラインとの違いはまず,着席を原則としている点.もうひとつは,客同士の距離を2mを目安としつつ,最低1mまで許容している点.
ライブで着席の是非についても議論が飛び交っていますが,個人的には距離確保の観点では有効だと思いますし,現時点ではやむを得ないかなと.
スタンディングにおいても足元にマーキングして距離確保を促す対応をやるとは思いますが,ライブに集中していると無意識に立っている位置がズレていったりすることも,ままあると思います.
ライブ中に都度スタッフや演者の方が注意を促すのも煩わしいでしょうし,その度にライブの流れも遮ることになると思うので,ただでさえ特殊な状況下なのに,余計にライブに入り込みにくくなるんじゃないかとも思います.
その点イスを距離を離して配置して座っていれば,無意識に移動して距離が詰まる,ということは防げるはずなので(イスを固定しておかないと動いちゃいますが…).
着席にすることで,一定の距離を保てるということから,客同士の距離を2m目安にしつつも最低1mまで許容しているのかなと思います.
2m感覚と1m感覚では収容人数も変わりますし,現状考え得る現実的な対策かなーとガイドライン読んでて感じました.
その他の対応
他の地域においても独自のガイドラインを示している県は多くありますが,私が見た範囲では概ね上記神奈川県や大阪府の内容と相違ない感じでしたね.
またイベントの規模についても各自治体が段階ごとに示していましたが,こちらも概ね似た内容で,以下のような指標です.
【参加人数】
・6月18日まで:
屋内…100人以下 屋外…200人以下
・6月19日~7月9日:
屋内/屋外…1000人以下
全国的な人の移動を伴うイベントは、無観客で開催
・7月10日~7月31日:
屋内/屋外…5000人以下
【収容率】
〇屋内:収容定員の半分以内の参加人数とすること
〇屋外:人と人との距離を十分に確保できること
※「大阪府における感染拡大防止に向けた取組み」から抜粋
まずは少人数から様子見ながら始めて,徐々に規模を拡大していく感じですね.
今後のライブハウスの対応
従来の形態のライブは現状ほぼ不可能
Admで実測しながら検証していましたが,数字のうえではどうなのか考えてみました.
ライブハウスのキャパ
そもそもライブハウスのキャパがどう決まっているかですが,消防法施行規則第1条の3に収容人員の算定方法として下記の記載があります.
立見席を設ける部分については、当該部分の床面積を〇・二平方メートルで除して得た数
消防法施行規則 第一条の三 令別表第一(一)項に掲げる防火対象物 ロ
立ち見に関しては床面積を0.2m2で割った数が収容人員という記載です.逆に収容人員に0.2m2をかけたら,立ち見部分の床面積になるわけです.
例えばAdmと同じキャパ150人のフロアは,床面積150×0.2=30m2となります.
客同士2m間隔の場合
30m2なので仮に立ち見部分を横幅7m,奥行き4.3mとして考えてみます.
神奈川県のガイドラインに沿って,客同士2mの間隔をとれるように配置してみた図がこちら.
実測検証と同じ7人になりますね.とはいえ,ライブハウスはこんな綺麗に真四角な場所ではないところも多く,場所によってはフロアの途中に柱が立っているところもあったりします.
そういった場合に柱の真後ろなど,ステージがまったく見えないところに配置されても意味がないので,実情に応じた配置となると,これよりも収容人員少なくなるところも出てくるのかと思うと,厳しいですね.
客同士1m間隔の場合
同様の条件で,大阪府のガイドラインの最低条件である客同士1mの間隔として配置してみた図がこちら.
2m間隔に対して4倍近く26人収容.通常のキャパ150人に対して17%くらいの収容率ですが,2m間隔よりはまだマシという感じですかね.
何れにしても通常のライブ環境とは程遠い形になるのは間違いないです.
営業自粛要請が解除されたと言っても,ガイドラインに沿うとライブをお客さん入れてやるのは,ほぼ不可能というか,とても厳しいのが現実ですね.
余談ながら1人あたり0.2m2のスペースということなので,0.4m x 0.5mの四角形を並べてみた図です.
キャパ150に対して並んだ四角形の数130.キャパ通りの人数入るとフロアがパンパンになるのも仕方ないなーと思いました.
配信主体が現実的か
上述の通り大阪府のガイドラインに沿っても収容人員はキャパの2割弱,という数字なので,単純にお客さんを入れてライブするにも,今まで通りのやり方では立ち行かないと思います.
4バンド,5バンドが出演するような対バンライブや,15分とか短いスパンで入れ替わり多くのアイドルが出演するイベントなどは,出演者ごとのお客さんが数人,みたいな状況になりかねない.
アーティストごとに入れ替えるにしても,都度換気と消毒の徹底となると転換時間も膨大にかかりますし.
それに少ないお客さんで今までと同様の金額を稼ごうと思うとチケット単価が跳ね上がることになります.
そもそもしばらくの間はイベント開催するにしても人数制限もありますし.
今後どうしていくのかが悩ましい状態ですね.
…と考えるとしばらくは今も始まっていますが配信主体になるのかなと素人ながらに思います.
実は業界団体のガイドラインが未公表と冒頭に書きましたが,無観客ライブ前提のガイドラインは先日公表されたものがあります.
新型コロナウイルス感染予防対策ガイドライン(無観客公演関係)
一般社団法人コンサートプロモーターズ協会
ライブハウスから無観客ライブの有料配信.まずはここからという感じでしょうかね.
既に営業再開を発表している仙台のライブハウスMACANAにおいても,所謂投げ銭方式での配信であったり,営業再開あたっての対応を発表していたりします.
個人的には有料配信にプラスして,観覧って形で自治体のガイドラインに沿ってお客さんを有料で入れるのもありかなーと思ったりしてます.
あくまでライブ配信を座席に座って観覧.ライブを目の前に動けないむず痒さもある気はしますが,この状況下でしかできない経験でもあるので,やり方次第では面白いかなーと.
休業要請が解除となっても,即今まで通りといかないのはどの業種も同じ.とりわけライブハウスは厳しい状況に置かれていますが,今まで通りのライブが見たい!と騒いでも状況が改善するわけでもないわけで.
それならば今の状況でライブハウスができることを,自分なりに応援していくなり,参加するなりしていきたいと思っています.
千里の道も一歩より.歩みを進めないことには何も始まらないので.
その一歩の積み重ねの先に今までのようにフロアで皆で盛り上がり,音と楽しみを共有できる,あの場所があることを信じて.